溶連菌感染症と診断されると、医師から必ず抗生物質が処方されます。薬を飲み始めると、数日で劇的に熱が下がり、あれほどひどかった喉の痛みも嘘のように楽になることがほとんどです。すると、多くの人が「もう治った」と自己判断し、処方された薬を途中でやめてしまいがちです。しかし、この行動こそが、溶連菌感染症において最も危険な落とし穴なのです。症状が軽快したからといって、体内の溶連菌が完全にいなくなったわけではありません。喉の奥には、まだ生き残った菌が潜んでいます。ここで抗生物質の服用をやめてしまうと、生き残った菌が再び増殖を始め、症状が再燃する可能性があります。さらに深刻なのは、不完全な治療によって引き起こされる「合併症」のリスクです。溶連菌感染症の治療で最も重要な目的は、症状を和らげること以上に、この合併症を防ぐことにあります。代表的な合併症には、「急性糸球体腎炎(きゅうせいしきゅうたいじんえん)」と「リウマチ熱」があります。急性糸球体腎炎は、溶連菌に感染してから2~4週間後に発症することがあり、血尿やたんぱく尿、むくみ、高血圧などを引き起こす腎臓の病気です。多くは自然に回復しますが、一部は慢性化することもあります。一方、リウマチ熱は、心臓や関節、神経に炎症が及ぶ病気で、特に心臓の弁に障害が残る「リウマチ性心疾患」という後遺症に繋がる可能性があります。これらの合併症は、体の免疫システムが、生き残った溶連菌に対して過剰に反応することで引き起こされると考えられています。つまり、抗生物質を処方された日数分、きっちりと飲み切ることによって、体内の菌を完全に叩き、免疫の過剰反応を防ぐことができるのです。一般的に、溶連菌感染症の抗生物質は、ペニシリン系であれば10日間、その他の系統の薬でも5日から7日間程度の服用が必要です。喉の痛みが消えても、それは戦いの終わりではありません。医師の指示に従い、最後まで薬を飲み切ること。それが、将来の深刻な病気から自分自身の体を守るための、最も重要で責任ある行動なのです。
精神科と心療内科の違いは?不眠症の診療科選び
不眠症で病院に行こうと考えた時、多くの人が「精神科」と「心療内科」のどちらを受診すべきか迷うことでしょう。この二つの診療科は、どちらも不眠症の治療を行っていますが、そのアプローチや得意とする領域に少し違いがあります。それぞれの特徴を理解することで、自分にとってより適切な診療科を選ぶ手助けになります。まず「精神科」は、心の病気全般を専門とする診療科です。うつ病や双極性障害、統合失調症、不安障害など、精神的な疾患が原因となって引き起こされる不眠の診断と治療を得意としています。不眠だけでなく、幻覚や妄想、強い気分の浮き沈み、強い不安感や恐怖心といった、明確な精神症状を伴う場合に特に適しています。治療は、睡眠薬だけでなく、原因となっている精神疾患そのものに対する薬物療法や、精神療法などを組み合わせて、根本的な問題解決を目指します。一方、「心療内科」は、ストレスなどの心理的な要因が引き金となって、身体に症状が現れる「心身症」を主に扱う診療科です。例えば、ストレスで胃が痛くなる(過敏性腸症候群)、頭痛が続く(緊張型頭痛)、そして眠れなくなる(不眠症)といったケースがこれにあたります。心療内科では、身体症状の治療と並行して、その背景にあるストレスや心理的な問題に対するカウンセリングや生活指導に重きを置く傾向があります。つまり、気分の落ち込みといった精神症状が主体であれば精神科、ストレスによる身体症状(不眠を含む)が主体であれば心療内科、というのが一つの大まかな分け方と言えるでしょう。しかし、実際には、この二つの診療科の境界は曖昧で、両方の領域をカバーしているクリニックも多く存在します。そのため、不眠で悩んでいる場合は、どちらを受診しても適切な治療を受けることが可能です。「精神科」という名前に抵抗がある方は、まずは「心療内科」や、メンタルクリニック、あるいは「内科」から相談を始めてみるのも良いでしょう。大切なのは、診療科の名前にこだわりすぎず、自分が相談しやすいと感じる医療機関を見つけることです。
病院へ行く前に。不眠症の症状を医師に伝えるコツ
長引く不眠に悩み、勇気を出して病院へ行くことを決心したなら、その限られた診察時間を最大限に有効活用したいものです。医師に自分の状態を的確に伝えることができれば、より正確な診断と、自分に合った治療法の選択に繋がります。診察室で慌ててしまい、「言いたいことの半分も言えなかった」と後悔しないために、事前にいくつかの準備をしておくことをお勧めします。最も有効な準備が「睡眠日誌(睡眠ダイアリー)」をつけることです。難しく考える必要はありません。ノートに、①就寝時刻(布団に入った時間)、②寝つくまでにかかった時間(おおよそで可)、③夜中に目が覚めた回数と時間、④起床時刻、⑤日中の眠気の程度(5段階評価など)、⑥その他気づいたこと(飲酒の有無、昼寝の時間、日中の気分など)を、少なくとも1〜2週間分記録してみましょう。この客観的な記録は、医師があなたの睡眠パターンを把握するための非常に貴重な情報源となります。次に、自分の不眠の「症状」と「悩み」を具体的に言葉にして整理しておくことも大切です。「眠れない」という漠然とした訴えだけでなく、「寝つきが悪い(入眠障害)」「夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)」「朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)」「ぐっすり眠った感じがしない(熟眠障害)」のうち、どれが一番つらいのかを明確にしておきましょう。そして、その不眠が、あなたの日常生活にどのような影響を及ぼしているのか(例:日中の集中力が続かない、仕事でミスが増えた、イライラしやすいなど)を伝えることも重要です。また、現在服用している薬やサプリメントがあれば、お薬手帳などを持参しましょう。他の薬との飲み合わせは、睡眠薬を処方する上で必ず確認が必要な情報です。さらに、不眠の原因として思い当たること(仕事のストレス、家庭の問題、健康上の不安など)や、医師に聞いてみたいこと(薬の副作用や依存性、治療期間の目安など)をメモにまとめておくと、質問し忘れるのを防げます。こうした丁寧な準備は、医師との信頼関係を築く上でも役立ちます。自分の状態を客観的に見つめ直す良い機会にもなるでしょう。
その不眠、病気のサインかも。隠れた身体的原因とは
「眠れない」という悩みは、ストレスや心の疲れだけが原因とは限りません。中には、特定の身体的な病気が背景に隠れており、それが不眠を引き起こしているケースも少なくありません。もし、十分な休養をとっても不眠が改善しない場合や、特徴的な症状を伴う場合は、単なる不眠症として片付けるのではなく、身体的な病気の可能性も視野に入れる必要があります。不眠を引き起こす代表的な身体疾患の一つが、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」です。これは、眠っている間に呼吸が何度も止まったり、浅くなったりする病気で、激しいいびきや、夜中に息苦しくて目が覚める、日中に耐えがたいほどの強い眠気がある、といった症状が特徴です。脳が酸素不足に陥るため、眠りの質が著しく低下し、熟睡感が得られません。この病気が疑われる場合は、「呼吸器内科」や「耳鼻咽喉科」、専門の「睡眠外来」などが相談先となります。次に、「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」も、不眠の大きな原因となります。夕方から夜にかけて、じっと座っていたり、横になったりしていると、脚(時には腕)に「むずむずする」「虫が這うような」「ピリピリする」といった、言葉で表現しがたい不快な感覚が現れ、脚を動かさずにいられなくなる病気です。この不快感のために寝つきが悪くなり、深刻な不眠に繋がります。この病気は、鉄分の不足などが関与していると考えられており、主に「神経内科」が専門となります。また、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される「甲状腺機能亢進症(バセドウ病)」も、交感神経が常に興奮状態になるため、動悸や多汗、手の震えと共に、不眠を引き起こします。この場合は「内分泌内科」や「一般内科」での血液検査が必要です。その他にも、関節リウマチなどの慢性的な痛みや、アトピー性皮膚炎の強いかゆみ、夜間頻尿なども、安らかな眠りを妨げる原因となります。このように、不眠は体からの重要なサインである可能性があります。まずはかかりつけの内科医に相談し、身体的な異常がないかを確認してもらうことが、思わぬ病気の早期発見に繋がるかもしれません。