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無呼吸改善は生活習慣の見直しから
睡眠時無補給症候群の標準的な治療法は、CPAP(シーパップ)療法ですが、この治療と並行して、あるいは軽症の場合には、自分自身の生活習慣を見直すことが、症状の改善と根本的な解決のために非常に重要です。この病気は、日々の生活習慣と深く結びついているからです。まず、最も効果的な対策の一つが「減量」です。無呼吸症候群の多くは、肥満、特に首回りや喉の奥に脂肪がつくことで気道が狭められることが原因です。体重を数パーセント減らすだけでも、気道の閉塞が改善され、無呼吸の回数が劇的に減ることが多くの研究で示されています。バランスの取れた食事と、適度な運動を習慣づけることが、治療の基本となります。次に、見直すべきは「飲酒」の習慣です。特に寝酒は、最悪の選択と言えます。アルコールには、筋肉を弛緩させる作用があります。これが喉の周りの筋肉に作用すると、気道はさらに狭くなり、いびきや無呼吸を悪化させてしまうのです。眠りを深くするどころか、睡眠の質を著しく低下させる原因となります。同様に、睡眠薬の一部にも筋弛緩作用があるため、使用には医師との相談が不可欠です。また、「喫煙」も喉の粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、気道を狭くする一因となります。禁煙は、無呼吸症候群の改善だけでなく、全身の健康にとっても多大なメリットがあります。そして、今日からでもすぐに始められるのが「寝る姿勢の工夫」です。仰向けで寝ると、重力で舌の付け根(舌根)が喉の奥に落ち込み、気道を塞ぎやすくなります。これを防ぐために、横向きで寝ることを心がけましょう。抱き枕を利用したり、背中にクッションを置いたりして、自然に横向きの姿勢を保てるように工夫するのも良い方法です。これらの生活習慣の改善は、一朝一夕に効果が出るものではありませんが、根気強く続けることで、CPAP療法の効果を高めたり、軽症であれば機械に頼らずに症状をコントロールしたりすることも可能になります。治療と自己管理、この二つの車輪で、健康な睡眠を取り戻しましょう。
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あなたの睡眠は大丈夫ですか
大きないびき、日中の眠気、起床時の頭痛。これらは睡眠時無呼吸症候群の典型的な症状ですが、自分ではなかなか気づきにくいものです。あなたや、あなたの隣で眠る大切なパートナーの睡眠は、本当に大丈夫でしょうか。病気の可能性に気づき、適切な医療に繋げるために、まずはご自身の睡眠の状態をセルフチェックしてみましょう。まず、最も重要なサインは「いびき」です。毎晩のように大きないびきをかいていませんか。そして、そのいびきは単調なものでしょうか。もし、大きないびきが突然静かになり、数十秒の静寂の後、あえぐような、あるいは大きなため息のような呼吸とともに再びいびきが始まる、というパターンを繰り返しているなら、無呼吸が起きている可能性が非常に高いと考えられます。パートナーに、スマートフォンの録音アプリなどを使って、一晩のいびきの様子を記録してもらうのも有効な方法です。次に、日中の覚醒状態を振り返ってみてください。夜は十分な時間眠っているはずなのに、日中、特に会議中や運転中、食事の後など、静かな環境になると、我慢できないほどの強い眠気に襲われることはありませんか。これは、夜間の睡眠の質が著しく低いことを示しています。朝の目覚めも重要なポイントです。目が覚めた時に、口がカラカラに乾いていたり、頭が重く痛かったり、すっきりと起きられず、熟睡した感じが全くない、ということはないでしょうか。夜間に何度もトイレに起きるというのも、見逃せないサインです。これらの項目に一つでも強く当てはまるなら、睡眠時無呼吸症候群が疑われます。その場合は、自己判断で放置せず、専門の医療機関を受診することが大切です。主な診療科としては、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、あるいは睡眠外来や睡眠センターといった専門クリニックがあります。まずはかかりつけの内科医に相談し、紹介してもらうという方法も良いでしょう。早期発見と早期治療が、あなたの未来の健康を守ることに繋がります。
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予防接種をしてもインフルエンザにかかる理由
ワクチンを接種したにもかかわらず感染してしまう、いわゆる「ブレークスルー感染」を経験すると、ワクチンの効果に疑問を感じてしまうのも無理はありません。しかし、これはワクチンが無意味であるということでは決してなく、その背景にはいくつかの明確な理由が存在します。その理由を理解することが、予防接種の役割を正しく評価するために不可欠です。まず、最も大きな理由として、ワクチンに含まれるウイルスの「型」と、実際にそのシーズンに流行するウイルスの「型」が、完全に一致しない場合がある、という点が挙げられます。インフルエンザウイルスは、常に少しずつその姿を変える(変異する)という厄介な性質を持っています。世界保健機関(WHO)は、世界中の流行状況から、その冬に流行するであろうウイルス型を予測し、それに基づいてワクチンが製造されますが、予測がわずかに外れること(ミスマッチ)があります。そうなると、ワクチンによって作られた抗体が、実際のウイルスにうまく結合できず、発症を完全に防ぎきれないことがあるのです。次に、ワクチンを接種しても、体内で作られる抗体の量(抗体価)には個人差がある、という点も重要です。一般的に、高齢者や免疫機能が低下している人は、若くて健康な成人に比べて、抗体が十分に作られにくい傾向があります。また、接種してから時間が経つにつれて、抗体の量は徐々に減少していきます。ワクチンの効果が一般的に5ヶ月程度とされるのはこのためです。流行の後半に感染した場合、抗体価が低下していて、発症を抑えきれないということも起こり得ます。しかし、ここで最も強調したいのは、たとえブレークスルー感染が起きたとしても、予防接種は決して無駄にはならない、ということです。たとえウイルスの型が完全に一致しなくても、ある程度の交差免疫が働くため、体内の免疫システムは、非接種者に比べてはるかに効率的にウイルスと戦うことができます。その結果、前述の通り、症状が軽く済んだり、肺炎などの重篤な合併症を防いだりする「重症化予防効果」は、十分に期待できるのです。「かかったから無駄だった」と考えるのではなく、「接種していたから、この程度の軽い症状で済んだ」と捉えること。この視点の転換が、インフルエンザという病気と賢く付き合っていく上で、何よりも大切なことと言えるでしょう。
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軽い症状のインフルエンザと風邪の見分け方
予防接種の効果によって、インフルエンザの症状が軽く抑えられた場合、それは個人にとっては非常に喜ばしいことですが、一方で、社会全体にとっては一つの問題が生じます。それは、「普通の風邪」との見分けが非常に難しくなり、本人がインフルエンザに感染していることに気づかないまま、無意識のうちに感染を広げてしまうリスクが高まることです。典型的なインフルエンザと風邪には、いくつかの明確な違いがあります。インフルエンザは、38度以上の高熱、強い悪寒、全身の倦怠感、筋肉痛・関節痛といった「全身症状」が、突然、そして強く現れるのが特徴です。一方、普通の風邪は、喉の痛み、鼻水、くしゃみ、咳といった、喉や鼻の「局所症状」が主体で、発熱も比較的緩やかで、高熱になることは少ないです。しかし、ワクチン接種者が軽症のインフルエンザにかかった場合、この境界線は極めて曖昧になります。高熱ではなく37度台の微熱にとどまり、関節痛もほとんど感じず、ただの倦怠感と軽い咳だけ、といった症状になることが少なくないからです。これは、まさに普通の風邪の症状とそっくりです。この状態で、「ただの風邪だから大丈夫」と自己判断し、マスクもせずに満員電車で通勤したり、職場で仕事を続けたりすると、どうなるでしょうか。本人の症状は軽くても、その人の体の中ではインフルエンザウイルスが増殖し、咳やくしゃみを通じて、周囲にウイルスをまき散らしているのです。そのウイルスが、予防接種を受けていない人や、高齢者、乳幼児、あるいは持病があって重症化リスクの高い人の体内に入ってしまった場合、深刻な事態を引き起こしかねません。つまり、症状が軽いインフルエンザ患者は、「歩く感染源」となってしまう危険性をはらんでいるのです。では、どうすればよいのでしょうか。最も重要なのは、たとえ症状が軽くても、「周囲でインフルエンザが流行している時期に、急な発熱や体調不良を感じた場合」は、安易に自己判断せず、速やかに医療機関を受診し、検査を受けることです。特に、家族や職場の同僚など、身近な人にインフルエンザ患者がいる場合は、なおさらです。医療機関でインフルエンザの確定診断を受けることは、適切な治療に繋がるだけでなく、周囲の人々を感染から守るための、社会的な責任を果たす上でも非常に重要な行動と言えます。
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これも無呼吸症候群の症状だったのか
睡眠時無呼吸症候群の症状と聞くと、多くの人が「いびき」と「日中の眠気」を思い浮かべるでしょう。しかし、この病気が引き起こす体の不調は、それだけではありません。実は、多くの人が原因不明の悩みとして抱えている症状の中にも、無呼吸症候群が原因となっているものが数多く隠れているのです。その代表的なものが、朝起きた時の頭痛です。二日酔いでもないのに、目覚めた瞬間から頭がズキズキと痛む、あるいは重苦しい感じがする。これは、睡眠中に無呼吸を繰り返すことで体内の酸素濃度が低下し、それを補うために脳の血管が拡張することが原因で起こると考えられています。夜、ぐっすり眠ったはずなのに、朝から頭痛で一日が始まるという方は、要注意です。また、「夜中に何度もトイレに起きる」という症状も、見過ごされがちなサインの一つです。年齢のせいだと考えがちですが、無呼吸による低酸素状態は、尿の量を調節するホルモンの分泌に異常をきたし、利尿作用を促進してしまうことがあります。夜間の頻尿に悩んでいる方は、無呼吸症候群の可能性も探ってみる価値があります。さらに、日中の活動においては、集中力の低下や記憶力の減退も顕著な症状です。睡眠の質が極端に悪いため、脳が十分に休息・回復できず、日中の知的パフォーマンスが著しく低下します。仕事でケアレスミスが増えたり、人の名前がなかなか思い出せなくなったりするのも、その一例です。精神面への影響も深刻です。十分な睡眠がとれない状態が続くと、自律神経のバランスが乱れ、理由もなくイライラしやすくなったり、気分が落ち込みやすくなったりと、性格が変わってしまったかのような変化が現れることもあります。うつ病と診断されていた患者さんが、実は重度の無呼吸症候群で、その治療を始めたら気分が改善したというケースも少なくありません。これらの症状に心当たりがある方は、「これも無呼吸のせいかもしれない」という視点を持つことが、不調の根本原因を見つけ出すための重要な鍵となるのです。
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排尿時の痛みや血尿を伴う腹痛は泌尿器科へ
腹痛と共に、「排尿に関するトラブル」が見られる場合、その原因は腎臓や尿管、膀胱、尿道といった「泌尿器」にある可能性が高いです。このような症状で専門的な診療を受けられるのが「泌尿器科」です。泌尿器科というと、男性の診療科というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、女性の膀胱炎や尿路結石なども、泌尿器科医が専門家として対応します。泌尿器系の病気が原因の腹痛には、特徴的な随伴症状があります。まず、最も頻度が高いのが「膀胱炎」です。女性に多く、大腸菌などの細菌が尿道から膀胱に侵入して炎症を起こす病気です。症状は、下腹部、特に恥骨の上のあたりに、シクシクとした痛みや重苦しい不快感が生じます。そして、それに加えて「排尿時痛(おしっこの終わりにツーンと痛む)」「頻尿(トイレが近い)」「残尿感」「尿の濁り」といった、膀胱の刺激症状を伴うのが大きな特徴です。次に、七転八倒するほどの激痛を引き起こすのが「尿路結石」です。これは、腎臓で作られた石(結石)が、尿の通り道である尿管に詰まることで発症します。痛みは、片側の腰や背中から、脇腹、そして下腹部にかけて、突然、波のように押し寄せる、のたうち回るほどの激痛(疝痛発作)として現れます。痛みのあまり、吐き気や嘔吐、冷や汗を伴うことも少なくありません。また、尿管の壁が石で傷つくため、尿に血が混じる「血尿」が見られるのも特徴です。さらに、膀胱炎を放置したり、尿管結石で尿の流れが滞ったりすると、細菌が腎臓にまで逆流して炎症を起こす「腎盂腎炎」を発症することがあります。腎盂腎炎では、下腹部痛だけでなく、感染が起きている側の背中や腰に強い痛みがあり、それに加えて、38.5度以上の高熱や、悪寒、震えといった強い全身症状を伴います。放置すると敗血症という重篤な状態になる危険性があるため、緊急の治療が必要です。このように、腹痛に加えて、排尿時の痛みや頻尿、血尿、あるいは高熱と背部痛といった症状がある場合は、泌尿器科を受診し、尿検査や超音波検査、CT検査などを受けて、原因を特定し、適切な治療(抗生物質や鎮痛薬の投与、結石の治療など)を受けることが重要です。
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ワキガの臭いは食べ物で変わる?食生活のヒント
「体は食べたものでできている」という言葉があるように、私たちが毎日口にする食べ物は、体臭、そしてワキガの臭いにも少なからず影響を与えます。食生活を改善するだけでワキガが完全に治るわけではありませんが、臭いを緩和し、体質を良い方向へ導くための一助となることは確かです。では、どのような食事がワキгаの臭いを強くし、逆にどのような食事が臭いを和らげるのに役立つのでしょうか。まず、臭いを強くする可能性があるとされるのが、動物性脂肪やタンパク質を多く含む食品です。具体的には、牛肉や豚肉などの肉類、バター、チーズ、生クリームといった乳製品、そして揚げ物などです。これらの食品は、ワキガの臭いの元となるアポクリン汗腺の働きを活発化させると言われています。また、分解される過程でアンモニアなどを発生させやすく、体臭そのものを強くする傾向があります。ニンニクやニラ、香辛料などの香りの強い食品も、その成分が汗とともに排出されるため、ワキガの臭いと混じり合って、より不快な臭いになる可能性があります。一方で、臭いの緩和に役立つとされるのが、日本の伝統的な「和食」中心の食生活です。野菜や海藻類、きのこ類に豊富に含まれる食物繊維は、腸内環境を整え、臭いの原因物質が体内に溜まるのを防いでくれます。また、野菜や果物に含まれるビタミンCやビタミンEといった抗酸化物質は、皮脂の酸化を防ぎ、臭いの発生を抑える効果が期待できます。大豆製品に含まれるイソフラボンは、ホルモンバランスを整える働きがあり、過剰な汗の分泌を抑えるのに役立つとも言われています。梅干しや酢の物に含まれるクエン酸には、疲労回復効果とともに、汗に含まれるアンモニアの発生を抑える働きがあります。毎日の食事を、肉中心から魚や大豆製品中心へ、洋食から和食へと少しシフトしてみる。そして、抗酸化作用のある緑黄色野菜を積極的に摂る。このような小さな心がけが、あなたの体の内側から、臭いの悩みをサポートしてくれるかもしれません。
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歩くと足がしびれて冷たくなる閉塞性動脈硬化症
しばらく歩くと、ふくらはぎや太ももが重くなって痛み、しびれも出てきて歩けなくなる。しかし、数分間休むと症状が和らぎ、また歩けるようになる。このような症状は、腰部脊柱管狭窄症の「間欠性跛行」と非常によく似ていますが、実は足の「血管」が原因で起こっている可能性があります。その代表的な病気が「閉塞性動脈硬化症(ASO)」です。この病気は、動脈硬化によって、足へ血液を送る動脈が狭くなったり、詰まったりすることで、足の組織に必要な酸素や栄養が十分に行き渡らなくなる血流障害です。この病気を専門に診断・治療するのは、「循環器内科」または「血管外科」となります。閉塞性動脈硬化症による間欠性跛行は、腰が原因のものとは異なり、前かがみになって休んでも症状は改善しません。立ち止まって、足の筋肉への酸素需要が減るのを待つことで、初めて痛みが和らぎます。また、血流障害が原因であるため、しびれや痛みに加えて、「足の冷たさ(冷感)」や、「足の色が悪くなる(蒼白、紫色)」といった症状を伴うのが特徴です。病状が進行すると、安静にしていても足が痛んだり、足の指に治りにくい潰瘍や壊疽(えそ)ができてしまったりすることもあり、最悪の場合は足を切断しなければならないこともあります。この病気は、高血圧、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病や、喫煙習慣のある人に多く見られます。診断のためには、まず両腕と両足首の血圧を同時に測定し、その比率を調べる「ABI(足関節上腕血圧比)検査」が行われます。これは、体に負担の少ない簡単な検査で、足の血流障害の有無を客観的に評価できます。さらに、超音波検査やCT、血管造影検査などで、どの血管が、どの程度詰まっているのかを詳しく調べます。治療は、まず禁煙と、原因となる生活習慣病の管理が基本となります。そして、血液をサラサラにする薬(抗血小板薬)や、血管を広げて血流を改善する薬による薬物療法が行われます。これらの治療で改善しない場合は、カテーテルを用いて狭くなった血管を風船やステントで広げる「血管内治療」や、人工血管を使って詰まった部分を迂回させる「バイパス手術」といった、より専門的な治療が必要となります。歩行時の足のしびれや痛みに、「冷たさ」が伴う場合は、血管の専門医への相談が重要です。
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おへそ周り・下腹部・右下腹部の痛み、虫垂炎や腸の病気
腹痛の場所が、お腹の真ん中から下の方である場合、主に小腸や大腸、そして虫垂や女性器、泌尿器といった臓器の病気を考えます。まず、「おへその周り」が痛む場合、これは「小腸」に由来する痛みであることが多いです。ウイルスや細菌による「急性腸炎(感染性胃腸炎)」では、おへそ周りを中心とした腹痛と共に、下痢や嘔吐、発熱といった症状が現れます。また、腸の動きが止まってしまう「腸閉塞(イレウス)」では、お腹全体の張りや、周期的に繰り返す激しい腹痛、嘔吐などが特徴です。次に、「下腹部全体」が痛む場合。これは「大腸」に関連する病気が考えられます。便秘に伴う腹痛や、ストレスが関与する「過敏性腸症候群(IBS)」では、下腹部に鈍い痛みや張りが生じます。また、大腸の壁にできた憩室(けいしつ)という袋に炎症が起こる「大腸憩室炎」では、下腹部に持続的な痛みと発熱が見られます。そして、腹痛の中で最も有名で、かつ注意が必要なのが「右下腹部」の痛みです。これは、「急性虫垂炎(盲腸)」の典型的なサインである可能性が非常に高いです。虫垂炎の痛みは、最初はみぞおちのあたりや、おへその周りの痛みとして始まり、数時間かけて徐々に右下腹部へと移動していくのが特徴です。吐き気や微熱を伴い、歩いたり咳をしたりすると、右下腹部に痛みが響きます。虫垂炎は、放置すると虫垂が破れて、腹膜炎という命に関わる重篤な状態に移行する危険性があるため、早期の診断と治療が不可欠です。これらのへそ周りや下腹部の痛みを診察するのは、まず「内科」や「消化器内科」が窓口となります。しかし、虫垂炎や腸閉塞など、手術が必要となる可能性が高い病気が疑われる場合は、初めから「外科」や「消化器外科」を受診するのが最もスムーズです。特に、歩くと響くような右下腹部の痛みを感じたら、様子を見ずに外科系の医療機関を受診することを強くお勧めします。
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まとめ。腹痛で迷ったら、どう考え、どう行動すべきか
突然の腹痛に見舞われた時、多くの情報の中から、自分にとって最適な行動を選択するのは難しいものです。ここでは、これまでの内容を総括し、「お腹が痛い」で悩んだ際に、どのように考え、どの診療科を目指すべきかの行動指針を整理します。まず、Step 1として、最も重要なのが「痛みの強さと緊急性の判断」です。「これまでに経験したことのないような、我慢できないほどの激痛」「冷や汗や意識がもうろうとする症状を伴う」「突然の激痛が胸や背中にも広がる」。これらのサインは、腹部大動脈瘤破裂や心筋梗塞、腸閉塞といった、一刻を争う緊急疾患の可能性があります。ためらわずに直ちに救急車を呼んでください。次に、Step 2として、「痛みの場所」を特定します。「みぞおち」の痛みなら胃や膵臓を考え消化器内科へ。「右上腹部」なら胆嚢を疑い消化器内科へ。「右下腹部」の痛みなら、虫垂炎を第一に考え「外科」へ。「下腹部」や「脇腹」の痛みなら、腸や泌尿器の病気を考えます。Step 3は、「腹痛以外の伴う症状」に注目することです。これが診療科選びの最大のヒントになります。「下痢や嘔吐、発熱」を伴うなら、感染性胃腸炎を疑い「内科・消化器内科」へ。「排尿時の痛みや血尿」があれば、尿路結石や膀胱炎を考え「泌尿器科」へ。女性で「不正出血やおりもの異常、月経との関連」があれば、「婦人科」の受診が不可欠です。Step 4として、これらのステップを踏んでも判断に迷う場合、あるいは症状がはっきりしない場合です。この場合は、まず幅広い内科系疾患の初期対応が可能である「内科」や「消化器内科」を最初の窓口として受診するのが最も合理的です。そこで詳しい問診と診察を受け、必要に応じて、外科や婦人科といった、より専門的な診療科へ紹介してもらうのがスムーズです。腹痛は、ありふれた症状だからこそ、その裏に隠された重大な病気のサインを見逃さないことが大切です。我慢したり、自己判断で鎮痛薬を飲んでごまかしたりせず、この思考プロセスを参考に、早期に専門医の助けを借りるようにしてください。