子供の舌が赤くブツブツしているのを発見した時、親としては「これはイチゴ舌だ。きっと溶連菌に違いない」と、ある程度の見当をつけたくなるものです。確かに、インターネットで情報を集め、典型的な症状と比較することは、病気の早期発見のきっかけとして非常に有益です。しかし、その自己判断だけで完結させてしまうことには、大きな危険が伴います。最終的な診断は、必ず医師に委ねなければなりません。なぜなら、イチゴ舌という一つの症状をとっても、その背景には溶連菌感染症や川崎病といった、治療法が全く異なる複数の病気の可能性が隠れているからです。例えば、溶連菌感染症であれば、抗生物質による治療が必須です。これを怠ると、後になって心臓や腎臓に重い合併症を引き起こすリスクがあります。一方で、川崎病の場合は、免疫グロブリン大量療法やアスピリン療法といった、心臓の合併症を防ぐための専門的な治療を、入院して行う必要があります。もし、親が「これは溶連菌だろう」と自己判断し、川崎病の可能性を見過ごしてしまったら、治療の開始が遅れ、取り返しのつかない事態を招きかねません。また、イチゴ舌に似た症状は、他のウイルス感染症や、稀ではありますがビタミン欠乏症、あるいは強いアレルギー反応などで見られることもあります。素人目での見分け方には限界があるのです。医師は、舌の状態を詳しく観察するだけでなく、喉の所見、発疹の性状、リンパ節の腫れ、心音、呼吸音といった全身の状態を総合的に診察します。そして、必要に応じて喉の迅速検査や血液検査などを行い、科学的な根拠に基づいて診断を下します。親の役割は、診断を下すことではありません。子供の症状の変化、「いつから熱が出たか」「舌はいつから赤いか」「他にどんな症状があるか」といった情報を、ありのままに、そして正確に医師に伝えることです。その情報こそが、医師が正しい診断に至るための最も重要な手がかりとなるのです。見分け方の知識はあくまで参考とし、最終判断は必ず専門家である医師に委ねましょう。