睡眠時無呼吸症候群は、大きないびきをかく肥満体型の男性の病気、というイメージが根強くあります。しかし、それは大きな誤解です。この病気は、女性、特に閉経期を迎えた後の女性にとっても、決して他人事ではない、身近に潜む「見えない敵」なのです。女性の体は、女性ホルモン、特にプロゲステロンによって守られています。プロゲステロンには、上気道の筋肉の活動を活発にし、気道を広げやすくする働きがあります。そのため、女性ホルモンが豊富に分泌されている若い時期は、男性に比べて無呼吸症候群になりにくいのです。しかし、更年期を迎え、閉経すると、このプロゲステロンの分泌が急激に減少し、気道を開いておく力が弱まります。さらに、加齢とともに筋肉量も低下し、体重も増えやすくなるため、閉経後の女性は無呼吸症候群を発症するリスクが、若い頃の何倍にも跳ね上がります。女性の無呼吸症候群が見過ごされやすいのは、その症状の現れ方が、男性の典型的なケースとは少し異なることにも原因があります。男性のように、家族が驚くほどの大きないびきや、はっきりとした呼吸停止が見られることは比較的少なく、むしろ「寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚める」「朝起きても疲れが取れていない」といった、不眠症や慢性疲労に似た症状を訴えることが多いのです。そのため、本人も家族も、まさか無呼吸が原因だとは気づかず、更年期障害や年齢のせいだと自己判断してしまいがちです。しかし、水面下では男性と同じように、睡眠中の低酸素と覚醒が繰り返され、心臓や血管に深刻なダメージが蓄積していきます。もし、あなたが更年期以降の女性で、原因のはっきりしない不眠や日中のだるさ、集中力の低下、あるいは起床時の頭痛に悩まされているなら、それはホルモンバランスの変化に伴って現れた、無呼吸症候群のサインかもしれません。一度、睡眠の専門医に相談してみることをお勧めします。