睡眠時無呼吸症候群を、単に「いびきがうるさい」「昼間眠い」だけの、生活の質に関わる問題だと軽視してはいけません。この病気の本当に恐ろしいところは、気づかぬうちに全身の血管や臓器を蝕み、高血圧、心臓病、脳卒中、糖尿病といった、命に関わる様々な生活習慣病を引き起こし、悪化させる点にあります。無呼吸症候群が寿命を縮める病気だと言われるのは、このためです。眠っている間に無呼吸状態に陥ると、体内の酸素濃度が低下します。すると、体は生命の危機と判断し、全身の交感神経を緊張させ、心拍数を上げて血圧を上昇させることで、何とか酸素を全身に送り届けようとします。この、睡眠中の急激な血圧上昇が、毎晩のように繰り返されるのです。その結果、血管の壁は常に強い圧力に晒され、傷つき、動脈硬化が進行していきます。これが、無呼吸症候群の患者さんに高血圧が非常に多く見られる理由です。そして、動脈硬化と高血圧は、心臓と脳にとって最大の敵となります。心臓は、高い血圧に逆らって血液を送り出さなければならず、常に過重労働を強いられます。また、低酸素状態は心筋に直接ダメージを与え、不整脈や狭心症、心筋梗梗塞、心不全といった致死的な心臓病のリスクを飛躍的に高めます。脳においても同様で、動脈硬化によって脆くなった脳血管が、急激な血圧上昇に耐えきれずに破れたり、詰まったりすることで、脳卒中を引き起こす危険性が健常者の数倍にもなると言われています。さらに、睡眠中の低酸素やストレスは、血糖値をコントロールするインスリンの働きを悪くする(インスリン抵抗性)こともわかっており、糖尿病の発症や悪化にも深く関わっています。このように、睡眠時無呼吸症候群は、静かに、しかし確実に全身を蝕んでいく全身病です。適切な治療を受けることは、単に日中の眠気を解消するためだけでなく、これらの恐ろしい合併症から自分の体を守り、健康な未来を手に入れるために不可欠なのです。
無呼吸が寿命を縮める本当の理由