小児科医として長年子供たちの健康を見守ってきましたが、ここ数年でRSウイルスの流行パターンには劇的な変化が見られます。かつては秋から冬にかけての風物詩のように流行し、2歳までの乳幼児が次々と感染して免疫を獲得していくのが一般的でした。しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴う徹底した手指衛生、マスクの着用、ソーシャルディスタンスの確保といった行動変容により、RSウイルスを含む多くの呼吸器感染症の伝播が一時的に劇的に抑えられました。その結果、現在では2歳を過ぎてもRSウイルスに一度もかかっていない、いわゆる「ウイルス未経験」の子供たちがかつてない規模で存在しています。これは医学的な観点から見ると二面性を持っています。まずポジティブな側面としては、乳幼児突然死症候群や重症肺炎のリスクが高い乳児期にRSウイルスに曝露されるのを避けられたという点です。一方で、懸念されるのは「免疫負債」という現象です。本来であれば幼少期に段階的に獲得していくはずの免疫が、空白期間によって完全に欠如した状態で成長し、その後、社会活動が再開されたタイミングで一気にウイルスに曝露されることで、通常よりも大規模な流行や、年齢の高い子供での激しい症状が見られるようになっています。実際、最近の流行では3歳や4歳で初めてRSウイルスに感染し、強い喘鳴や高熱を出すケースが散見されます。しかし、保護者の皆様に強調したいのは、2歳までにかかっていないことが決して異常なことでも、将来的な健康を損なうことでもないという事実です。むしろ、気道が成長し、肺活量も増えた段階で初感染を迎えることは、酸素療法が必要になるような重篤な事態を防ぐ大きな盾となります。確かに、初めての感染では年齢に関わらず激しい咳や熱が出ますが、2歳以上であれば自分の症状をある程度伝えることができ、食事や水分の摂取も比較的スムーズに行えるため、管理がしやすいという利点があります。これからの時代、感染症をゼロに抑え込むことは不可能ですが、重症化のリスクが高い時期をいかに回避し、安全な年齢で免疫を獲得させていくかという戦略が重要になります。2歳までにかかっていないという現状を前向きに捉え、もし発症した際には「いよいよ免疫をつける時期が来たのだな」と、落ち着いてケアに当たっていただきたいと思います。
小児科医が語るRSウイルス未感染の2歳児が増えている背景