足のしびれの中には、一刻の猶予も許されない、命に関わる非常に危険なものがあります。それは、脳の血管が詰まったり破れたりすることで起こる「脳卒中(脳梗塞・脳出血)」のサインとしてのしびれです。このような脳に起因するしびれを疑い、直ちに「脳神経外科」または「脳神経内科」のある救急病院を受診すべき危険な兆候を知っておくことは、自分自身や家族の命を守る上で極めて重要です。脳卒中によるしびれの最も大きな特徴は、その「突然の発症」と「片側性」です。腰が原因のしびれが徐々に現れることが多いのに対し、脳卒中によるしびれは、ある瞬間、本当に突然に現れます。そして、体の右半身、あるいは左半身というように、片側の手と足が同時にしびれることが多いのです。「突然、右足と右手の感覚がなくなった」「左半身がジンジンしびれ始めた」といった場合は、強く脳卒中を疑う必要があります。そして、最も重要なのが、しびれ以外の「神経症状」を伴っているかどうかです。脳は、体の動きや感覚、言語など、あらゆる機能を司る司令塔です。そのため、脳細胞がダメージを受けると、しびれだけでなく、様々な神経症状が同時に現れます。アメリカ脳卒中協会などが提唱する「FAST」という標語は、これらのサインを覚えるのに役立ちます。F (Face):顔の麻痺。「イーッ」と笑った時に、片方の口角が下がって顔が歪む。A (Arm):腕の麻痺。両腕を前に上げた時に、片方の腕だけが力なく下がってくる。S (Speech):言葉の障害。「今日は天気が良い」といった簡単な文章が、ろれつが回らずうまく言えない、あるいは言葉そのものが出てこない。T (Time):発症時刻。これらの症状が一つでも見られたら、発症時刻を確認し、ためらわずに直ちに救急車を呼ぶ必要があります。脳卒中の治療、特に脳梗塞の治療は、時間との勝負です。発症から数時間以内に血栓を溶かす薬(t-PA)の投与や、カテーテルによる血栓回収術といった専門的な治療を開始できれば、後遺症を大幅に軽減できる可能性があります。足のしびれに、これらの「FAST」の症状が伴う場合は、絶対に様子を見ず、救急要請をしてください。