お尻のかゆみの中でも、特に「肛門の周り」に限定して、むずむずする、あるいは焼けるような、我慢できないかゆみが続く場合、それは「肛門掻痒症(こうもんそうようしょう)」と呼ばれ、その原因は肛門そのものにある可能性が高いです。このような場合に、最も専門的な診察を受けられるのが「肛門科」です。肛門科は、多くの場合、「消化器外科」や「胃腸科」に併設されています。肛門周囲のかゆみを引き起こす原因は様々ですが、まず考えられるのが「痔(じ)」の存在です。特に、いぼ痔(痔核)があると、肛門の締まりが少し緩くなり、腸からの粘液が皮膚に漏れ出て、その刺激でかぶれやかゆみを引き起こすことがあります。また、切れ痔(裂肛)があると、痛みだけでなく、傷からの浸出液がかゆみの原因になることもあります。これらの場合、かゆみだけでなく、排便時の出血や痛み、脱出感といった、痔に特徴的な他の症状を伴うことが多いです。次に、意外と多いのが、清潔にしようとしすぎるあまりに起こる「洗いすぎ」が原因のケースです。排便後、ウォシュレットの強い水圧で長時間洗浄したり、石鹸やボディソープでゴシゴシと力強く洗ったりすると、肛門周囲の皮膚を守っている皮脂膜や角質層まで洗い流してしまい、皮膚のバリア機能が破壊されてしまいます。その結果、皮膚は乾燥して無防備な状態になり、わずかな刺激(下着の摩擦や便の付着など)でも、かゆみを感じやすくなってしまうのです。これを「きれい好き貧乏」と呼ぶこともあります。逆に、下痢などで便が柔らかい時に、十分に拭き取れずに便が皮膚に付着したままでいることも、強い刺激となり、かゆみの原因となります。肛門科では、まず問診で症状や排便習慣などを詳しく聞き、視診や指診、必要であれば肛門鏡を使って、肛門や直腸の状態を直接観察します。痔などの病気が見つかれば、その治療(軟膏や座薬、生活習慣指導など)を行います。洗いすぎが原因の場合は、正しい排便後のケアについて指導されます。肛門のかゆみは、場所が場所だけに受診をためらいがちですが、専門医に相談することで、長年の悩みから解放されることも少なくありません。