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排尿時の痛みや血尿を伴う腹痛は泌尿器科へ
腹痛と共に、「排尿に関するトラブル」が見られる場合、その原因は腎臓や尿管、膀胱、尿道といった「泌尿器」にある可能性が高いです。このような症状で専門的な診療を受けられるのが「泌尿器科」です。泌尿器科というと、男性の診療科というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、女性の膀胱炎や尿路結石なども、泌尿器科医が専門家として対応します。泌尿器系の病気が原因の腹痛には、特徴的な随伴症状があります。まず、最も頻度が高いのが「膀胱炎」です。女性に多く、大腸菌などの細菌が尿道から膀胱に侵入して炎症を起こす病気です。症状は、下腹部、特に恥骨の上のあたりに、シクシクとした痛みや重苦しい不快感が生じます。そして、それに加えて「排尿時痛(おしっこの終わりにツーンと痛む)」「頻尿(トイレが近い)」「残尿感」「尿の濁り」といった、膀胱の刺激症状を伴うのが大きな特徴です。次に、七転八倒するほどの激痛を引き起こすのが「尿路結石」です。これは、腎臓で作られた石(結石)が、尿の通り道である尿管に詰まることで発症します。痛みは、片側の腰や背中から、脇腹、そして下腹部にかけて、突然、波のように押し寄せる、のたうち回るほどの激痛(疝痛発作)として現れます。痛みのあまり、吐き気や嘔吐、冷や汗を伴うことも少なくありません。また、尿管の壁が石で傷つくため、尿に血が混じる「血尿」が見られるのも特徴です。さらに、膀胱炎を放置したり、尿管結石で尿の流れが滞ったりすると、細菌が腎臓にまで逆流して炎症を起こす「腎盂腎炎」を発症することがあります。腎盂腎炎では、下腹部痛だけでなく、感染が起きている側の背中や腰に強い痛みがあり、それに加えて、38.5度以上の高熱や、悪寒、震えといった強い全身症状を伴います。放置すると敗血症という重篤な状態になる危険性があるため、緊急の治療が必要です。このように、腹痛に加えて、排尿時の痛みや頻尿、血尿、あるいは高熱と背部痛といった症状がある場合は、泌尿器科を受診し、尿検査や超音波検査、CT検査などを受けて、原因を特定し、適切な治療(抗生物質や鎮痛薬の投与、結石の治療など)を受けることが重要です。
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歩くと足がしびれて冷たくなる閉塞性動脈硬化症
しばらく歩くと、ふくらはぎや太ももが重くなって痛み、しびれも出てきて歩けなくなる。しかし、数分間休むと症状が和らぎ、また歩けるようになる。このような症状は、腰部脊柱管狭窄症の「間欠性跛行」と非常によく似ていますが、実は足の「血管」が原因で起こっている可能性があります。その代表的な病気が「閉塞性動脈硬化症(ASO)」です。この病気は、動脈硬化によって、足へ血液を送る動脈が狭くなったり、詰まったりすることで、足の組織に必要な酸素や栄養が十分に行き渡らなくなる血流障害です。この病気を専門に診断・治療するのは、「循環器内科」または「血管外科」となります。閉塞性動脈硬化症による間欠性跛行は、腰が原因のものとは異なり、前かがみになって休んでも症状は改善しません。立ち止まって、足の筋肉への酸素需要が減るのを待つことで、初めて痛みが和らぎます。また、血流障害が原因であるため、しびれや痛みに加えて、「足の冷たさ(冷感)」や、「足の色が悪くなる(蒼白、紫色)」といった症状を伴うのが特徴です。病状が進行すると、安静にしていても足が痛んだり、足の指に治りにくい潰瘍や壊疽(えそ)ができてしまったりすることもあり、最悪の場合は足を切断しなければならないこともあります。この病気は、高血圧、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病や、喫煙習慣のある人に多く見られます。診断のためには、まず両腕と両足首の血圧を同時に測定し、その比率を調べる「ABI(足関節上腕血圧比)検査」が行われます。これは、体に負担の少ない簡単な検査で、足の血流障害の有無を客観的に評価できます。さらに、超音波検査やCT、血管造影検査などで、どの血管が、どの程度詰まっているのかを詳しく調べます。治療は、まず禁煙と、原因となる生活習慣病の管理が基本となります。そして、血液をサラサラにする薬(抗血小板薬)や、血管を広げて血流を改善する薬による薬物療法が行われます。これらの治療で改善しない場合は、カテーテルを用いて狭くなった血管を風船やステントで広げる「血管内治療」や、人工血管を使って詰まった部分を迂回させる「バイパス手術」といった、より専門的な治療が必要となります。歩行時の足のしびれや痛みに、「冷たさ」が伴う場合は、血管の専門医への相談が重要です。
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おへそ周り・下腹部・右下腹部の痛み、虫垂炎や腸の病気
腹痛の場所が、お腹の真ん中から下の方である場合、主に小腸や大腸、そして虫垂や女性器、泌尿器といった臓器の病気を考えます。まず、「おへその周り」が痛む場合、これは「小腸」に由来する痛みであることが多いです。ウイルスや細菌による「急性腸炎(感染性胃腸炎)」では、おへそ周りを中心とした腹痛と共に、下痢や嘔吐、発熱といった症状が現れます。また、腸の動きが止まってしまう「腸閉塞(イレウス)」では、お腹全体の張りや、周期的に繰り返す激しい腹痛、嘔吐などが特徴です。次に、「下腹部全体」が痛む場合。これは「大腸」に関連する病気が考えられます。便秘に伴う腹痛や、ストレスが関与する「過敏性腸症候群(IBS)」では、下腹部に鈍い痛みや張りが生じます。また、大腸の壁にできた憩室(けいしつ)という袋に炎症が起こる「大腸憩室炎」では、下腹部に持続的な痛みと発熱が見られます。そして、腹痛の中で最も有名で、かつ注意が必要なのが「右下腹部」の痛みです。これは、「急性虫垂炎(盲腸)」の典型的なサインである可能性が非常に高いです。虫垂炎の痛みは、最初はみぞおちのあたりや、おへその周りの痛みとして始まり、数時間かけて徐々に右下腹部へと移動していくのが特徴です。吐き気や微熱を伴い、歩いたり咳をしたりすると、右下腹部に痛みが響きます。虫垂炎は、放置すると虫垂が破れて、腹膜炎という命に関わる重篤な状態に移行する危険性があるため、早期の診断と治療が不可欠です。これらのへそ周りや下腹部の痛みを診察するのは、まず「内科」や「消化器内科」が窓口となります。しかし、虫垂炎や腸閉塞など、手術が必要となる可能性が高い病気が疑われる場合は、初めから「外科」や「消化器外科」を受診するのが最もスムーズです。特に、歩くと響くような右下腹部の痛みを感じたら、様子を見ずに外科系の医療機関を受診することを強くお勧めします。
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しびれは病気のサイン?見過ごされがちなその他の原因
これまで述べてきた代表的な病気の他にも、足のしびれを引き起こす原因は数多く存在します。中には、見過ごされがちですが、治療可能なものや、全身の状態を反映している重要なサインであるものも含まれています。例えば、「ビタミン欠乏症」もその一つです。特に、神経の機能を正常に保つために不可欠な「ビタミンB12」が不足すると、手足の末端にしびれや感覚障害が生じることがあります。ビタミンB12は、主に動物性食品に含まれているため、厳格な菜食主義者(ヴィーガン)や、胃を切除した人、あるいは高齢者などで吸収不良が起こりやすいとされています。この場合は、「内科」で血液検査を行い、ビタミンB12を補充することで症状の改善が期待できます。また、「アルコールの過剰摂取」も、末梢神経に直接的なダメージを与える(アルコール性ニューロパチー)原因となります。長年にわたる多量の飲酒習慣がある人で、足の裏のしびれや痛みが現れた場合は、これを疑う必要があります。治療の基本は、何よりもまず「禁酒」であり、これも内科医の指導のもとで行われます。さらに、甲状腺ホルモンの分泌が低下する「甲状腺機能低下症」では、全身の代謝が低下し、むくみ(粘液水腫)が神経を圧迫することで、手足にしびれが生じることがあります。倦怠感や冷え、体重増加といった他の症状と共にしびれを感じる場合は、「内分泌内科」での検査が必要です。精神的なストレスや不安が、体の感覚を過敏にさせ、はっきりとした原因がないにもかかわらず、しびれとして感じられる「心因性」の症状もあります。この場合は、「心療内科」が相談の窓口となります。その他、特定の抗がん剤などの「薬剤の副作用」として、末梢神経障害が現れることもあります。もし、新しい薬を飲み始めてからしびれが出現した場合は、その薬を処方した主治医に必ず相談してください。このように、足のしびれは、生活習慣や内分泌、精神的な状態まで、実に様々な要因を反映しています。一つの可能性に固執せず、幅広い視点で原因を探ってくれる、かかりつけの内科医などにまずは相談することも、解決への近道となるでしょう。
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両足の先から始まるしびれは糖尿病性神経障害を疑う
足のしびれが、片足だけでなく、両足に、しかも足の裏や指先といった末端から、まるで靴下を履いているかのように左右対称に現れ、それが徐々に上の方へと広がってくる。そして、しびれの感覚が、「ジンジン」「ピリピリ」とした不快な痛みや、あるいは逆に「一枚皮をかぶったようで感覚が鈍い」といった形で感じられる。このような特徴的なしびれは、「糖尿病」の三大合併症の一つである「糖尿病性神経障害」の典型的な症状かもしれません。この場合、まず相談すべき診療科は、かかりつけの「内科」、あるいはより専門的な「糖尿病内科」「内分泌内科」となります。糖尿病性神経障害は、長期間にわたって血糖値が高い状態が続くことで、全身の細い血管がダメージを受け、末梢神経に十分な酸素や栄養が供給されなくなることや、高血糖そのものが神経細胞に悪影響を及ぼすことで発症します。最も障害されやすいのが、足先の感覚神経や自律神経です。初期症状として、前述のような左右対称性のしびれや痛み、冷えなどが現れます。このしびれは、夜間に強くなる傾向があります。病状が進行すると、感覚がさらに鈍くなり、熱さや冷たさ、痛みなどを感じにくくなります。この「感覚の鈍麻」が非常に危険で、靴ずれや小さな怪我、やけどなどに気づきにくくなります。そして、気づかないうちに傷口から細菌が侵入して感染を起こし、治りにくい潰瘍や、最悪の場合は組織が壊死してしまう「糖尿病性足病変」へと進行するリスクが非常に高くなるのです。これを防ぐためには、何よりもまず、原因となっている糖尿病の治療、すなわち「血糖コントロール」が不可欠です。糖尿病内科では、血液検査(血糖値やヘモグロビンA1cなど)で血糖の状態を評価し、食事療法、運動療法、そして必要に応じて経口血糖降下薬やインスリン注射といった薬物療法を組み合わせて、良好な血糖コントロールを目指します。しびれや痛みといった症状に対しては、神経障害性疼痛に有効な薬(プレガバリン、デュロキセチンなど)や、血流を改善する薬、ビタミンB12製剤などが用いられます。また、フットケア指導も重要な治療の一環です。毎日自分の足を観察し、傷や色の変化がないかを確認し、清潔に保ち、適切な靴を選ぶといった、日々の自己管理が、重篤な足病変への進行を防ぐ鍵となります。
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下痢や嘔吐、発熱を伴う腹痛、感染性胃腸炎の可能性
お腹の痛みと共に、下痢(特に水のような便)、吐き気、嘔吐、そして発熱といった症状が同時に現れた場合、その原因として最も考えられるのが「感染性胃腸炎」です。これは、ウイルスや細菌などの病原体が、飲食物や手指を介して口から体内に入り、胃や腸の粘膜に感染して炎症を起こす病気です。一般的に「お腹の風邪」や「食中毒」と呼ばれるものがこれにあたります。感染性胃腸炎が疑われる場合、受診すべき診療科は、大人は「内科」または「消化器内科」、子どもは「小児科」です。冬場に流行するのが、ノロウイルスやロタウイルスといった「ウイルス性胃腸炎」です。感染力が非常に強く、学校や家庭内などで集団発生しやすいのが特徴です。突然の激しい嘔吐で始まり、その後、水のような下痢が続くのが典型的なパターンです。一方、夏場に多いのが、サルモネラ菌やカンピロバクター、腸管出血性大腸菌(O-157など)といった「細菌性胃腸炎(食中毒)」です。加熱不十分な肉や卵、生の魚介類などが原因となり、ウイルス性と比べて、腹痛がより激しかったり、高熱が出たり、便に血が混じったり(血便)することが多いのが特徴です。治療の基本は、原因がウイルスであれ細菌であれ、下痢や嘔吐によって失われた水分と電解質を補給する「水分補給」です。脱水症状を防ぐことが何よりも重要で、そのためには、水分と塩分、糖分がバランス良く配合された「経口補水液」を、少量ずつ、こまめに摂取するのが最も効果的です。食事は、症状が落ち着くまでは無理に摂らず、胃腸を休ませることが大切です。自己判断で強い下痢止めを服用するのは、病原体の排出を妨げ、回復を遅らせる可能性があるため、原則として避けるべきです。ほとんどの場合は、これらの対症療法で数日以内に回復しますが、嘔吐が激しくて水分が全く摂れない、高熱が続く、血便が出るといった場合は、点滴や抗生物質による治療が必要となることがあるため、必ず医療機関を受診してください。
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婦人科も視野に、おりもの・カンジダ・ホルモンバランスの乱れ
お尻のかゆみが、単独ではなく、「おりものの量の増加や変化」「陰部の強いかゆみ」といった症状と同時に現れている場合、その原因は皮膚だけの問題ではなく、婦人科系のトラブルが関わっている可能性が高いと考えられます。このような場合は、皮膚科で対症療法を受けるだけでなく、根本原因の治療のために「婦人科」の受診を検討することが非常に重要です。女性のお尻のかゆみの原因となる代表的な婦人科疾患が、「カンジダ腟炎」です。カンジダは、健康な女性の体にも存在する常在菌(カビの一種)ですが、疲労やストレス、抗生物質の使用、妊娠などで体の抵抗力が落ちると、異常増殖して腟炎を引き起こします。カンジダ腟炎の典型的な症状は、外陰部の耐え難いほどの強いかゆみと、酒かすやカッテージチーズ、ヨーグルトに例えられる、ポロポロとした白いおりものです。この強いかゆみは、腟や外陰部だけでなく、その周辺である肛門の周りや、お尻の割れ目にまで広がることが多く、これが「お尻のかゆみ」として自覚されるのです。この場合、お尻の皮膚にいくら塗り薬を塗っても、原因である腟内のカンジダを治療しない限り、かゆみは根本的には治まりません。婦人科では、おりものの検査でカンジダ菌の有無を確認し、腟内に直接挿入する「抗真菌薬の腟錠」や、外陰部に塗るクリームなどで治療します。また、おりものそのものが、かぶれの原因となることもあります。細菌性腟症などでおりものの量が増えたり、性状が変化したりすると、デリケートゾーンが常に湿った状態になり、皮膚がふやけてバリア機能が低下し、かぶれやかゆみを引き起こしやすくなります。これも、おりものの原因を治療することが根本解決に繋がります。さらに、40代後半以降の更年期の女性では、女性ホルモン(エストロゲン)の減少によって、外陰部や腟の粘膜が萎縮し、乾燥しやすくなります。この乾燥が、かゆみやヒリヒリ感を引き起こし、お尻にまで影響が及ぶこともあります。この場合は、ホルモン補充療法などが有効な選択肢となります。おりものの変化を伴うお尻のかゆみは、婦人科医への相談が不可欠です。
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痛む場所で考える、みぞおち・右上腹部・左上腹部の痛み
腹痛の原因を探る上で、最も重要な手がかりの一つが「痛みの場所」です。お腹の中には様々な臓器が収まっており、痛む場所によって、どの臓器に異常が起きているのかをある程度推測することができます。まず、お腹の上の方、いわゆる「みぞおち(心窩部)」が痛む場合です。ここには胃や十二指腸、膵臓などがあります。キリキリとした痛みや、シクシクとした痛みが、空腹時や食後に現れる場合は、「急性胃炎」や「胃潰瘍・十二指腸潰瘍」の可能性があります。また、脂っこい食事の後などに、みぞおちから背中にかけて突き抜けるような激痛が起こり、吐き気を伴う場合は、「急性膵炎」を強く疑う必要があります。これは重症化すると命に関わる病気です。次に、「右上腹部」が痛む場合。ここには肝臓や胆嚢があります。特に、食後に、右上腹部から右肩にかけて差し込むような激しい痛みが起こる場合は、「胆石発作」や「胆嚢炎」が考えられます。胆石が胆嚢の出口に詰まることで、激しい痛みを引き起こすのです。発熱や黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)を伴うこともあります。そして、「左上腹部」が痛む場合。ここには脾臓や膵臓の尾部、胃の一部などがありますが、この場所に限定した痛みを引き起こす病気は比較的稀です。しかし、急性膵炎では、左側に痛みが強く出ることもあります。これらの上腹部の痛みを専門的に診断・治療するのは、「消化器内科」または「胃腸科」です。胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)や腹部超音波(エコー)検査、CT検査、血液検査などを組み合わせて、原因を特定し、適切な治療を行います。ただし、忘れてはならないのが、心臓の病気である「心筋梗塞」も、胸の痛みではなく、みぞおちの痛みや吐き気として発症することがあるという点です。冷や汗や息苦しさを伴う場合は、循環器内科への受診も視野に入れる必要があります。
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舌の見た目だけで判断は危険!医師の診断が不可欠
子供の舌が赤くブツブツしているのを発見した時、親としては「これはイチゴ舌だ。きっと溶連菌に違いない」と、ある程度の見当をつけたくなるものです。確かに、インターネットで情報を集め、典型的な症状と比較することは、病気の早期発見のきっかけとして非常に有益です。しかし、その自己判断だけで完結させてしまうことには、大きな危険が伴います。最終的な診断は、必ず医師に委ねなければなりません。なぜなら、イチゴ舌という一つの症状をとっても、その背景には溶連菌感染症や川崎病といった、治療法が全く異なる複数の病気の可能性が隠れているからです。例えば、溶連菌感染症であれば、抗生物質による治療が必須です。これを怠ると、後になって心臓や腎臓に重い合併症を引き起こすリスクがあります。一方で、川崎病の場合は、免疫グロブリン大量療法やアスピリン療法といった、心臓の合併症を防ぐための専門的な治療を、入院して行う必要があります。もし、親が「これは溶連菌だろう」と自己判断し、川崎病の可能性を見過ごしてしまったら、治療の開始が遅れ、取り返しのつかない事態を招きかねません。また、イチゴ舌に似た症状は、他のウイルス感染症や、稀ではありますがビタミン欠乏症、あるいは強いアレルギー反応などで見られることもあります。素人目での見分け方には限界があるのです。医師は、舌の状態を詳しく観察するだけでなく、喉の所見、発疹の性状、リンパ節の腫れ、心音、呼吸音といった全身の状態を総合的に診察します。そして、必要に応じて喉の迅速検査や血液検査などを行い、科学的な根拠に基づいて診断を下します。親の役割は、診断を下すことではありません。子供の症状の変化、「いつから熱が出たか」「舌はいつから赤いか」「他にどんな症状があるか」といった情報を、ありのままに、そして正確に医師に伝えることです。その情報こそが、医師が正しい診断に至るための最も重要な手がかりとなるのです。見分け方の知識はあくまで参考とし、最終判断は必ず専門家である医師に委ねましょう。
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女性を襲う睡眠中の見えない敵
睡眠時無呼吸症候群は、大きないびきをかく肥満体型の男性の病気、というイメージが根強くあります。しかし、それは大きな誤解です。この病気は、女性、特に閉経期を迎えた後の女性にとっても、決して他人事ではない、身近に潜む「見えない敵」なのです。女性の体は、女性ホルモン、特にプロゲステロンによって守られています。プロゲステロンには、上気道の筋肉の活動を活発にし、気道を広げやすくする働きがあります。そのため、女性ホルモンが豊富に分泌されている若い時期は、男性に比べて無呼吸症候群になりにくいのです。しかし、更年期を迎え、閉経すると、このプロゲステロンの分泌が急激に減少し、気道を開いておく力が弱まります。さらに、加齢とともに筋肉量も低下し、体重も増えやすくなるため、閉経後の女性は無呼吸症候群を発症するリスクが、若い頃の何倍にも跳ね上がります。女性の無呼吸症候群が見過ごされやすいのは、その症状の現れ方が、男性の典型的なケースとは少し異なることにも原因があります。男性のように、家族が驚くほどの大きないびきや、はっきりとした呼吸停止が見られることは比較的少なく、むしろ「寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚める」「朝起きても疲れが取れていない」といった、不眠症や慢性疲労に似た症状を訴えることが多いのです。そのため、本人も家族も、まさか無呼吸が原因だとは気づかず、更年期障害や年齢のせいだと自己判断してしまいがちです。しかし、水面下では男性と同じように、睡眠中の低酸素と覚醒が繰り返され、心臓や血管に深刻なダメージが蓄積していきます。もし、あなたが更年期以降の女性で、原因のはっきりしない不眠や日中のだるさ、集中力の低下、あるいは起床時の頭痛に悩まされているなら、それはホルモンバランスの変化に伴って現れた、無呼吸症候群のサインかもしれません。一度、睡眠の専門医に相談してみることをお勧めします。