小児科や内科の診察室には、毎日多くの「喉の痛い」患者さんが訪れます。その中で、私たちの重要な役割の一つが、それが一般的なウイルス性の風邪なのか、それとも抗生物質による治療が必須となる「溶連菌感染症」なのかを的確に見極めることです。ある日の午後、母親に連れられて診察室に入ってきた5歳の男の子、健太くんもその一人でした。母親は「昨日の夜から急に熱が出て、喉が痛いと泣いて食事もとれないんです」と心配そうな表情で訴えました。私はまず、健太くんの全身の状態を観察します。ぐったりしているか、顔色はどうか。次に、丁寧な問診を通じて、症状の経過を詳しく聞き取ります。いつから熱が出たか、咳や鼻水はあるか、周りで同じような症状の人はいないか。健太くんの場合、咳や鼻水はほとんどなく、急な高熱と激しい喉の痛みが主症状でした。ここが、鼻水や咳を伴うことが多いウイルス性の風邪との最初の違いです。次に、私はペンライトを手に、健太くんの喉の奥を診察します。口を大きく開けてもらうと、そこには診断の決め手となる所見が広がっていました。扁桃腺は真っ赤に腫れあがり、白いチーズのような膿がいくつも付着しています。この「扁桃膿栓」や「咽頭発赤」の強さは、溶連菌感染症を強く疑わせるサインです。さらに、舌を見せてもらうと、表面が赤くブツブツとしており、いわゆる「イチゴ舌」の状態でした。これらの診察所見から、臨床的にはほぼ溶連菌感染症で間違いないと判断できますが、確定診断のためには客観的な検査が必要です。私は母親に説明し、「迅速診断キット」による検査を行いました。細長い綿棒で喉の奥をそっとこすり、試薬に浸して数分待つだけの簡単な検査です。結果は、陽性。やはり溶連菌でした。私は母親に、これは細菌感染症であること、合併症予防のために抗生物質を10日間飲み切ることが何よりも重要であることを丁寧に説明しました。このように、私たちは患者さんの訴え、視診による所見、そして迅速検査という客観的証拠を組み合わせることで、数ある喉の痛みの原因の中から、溶連菌感染症という一つの答えを導き出しているのです。
医師が語る溶連菌の診断。喉の痛みを見極める視点