救急指定病院という日本の誇るべき医療システムが、今、静かに崩壊の危機に瀕しています。その大きな要因の一つとして挙げられるのが、本来であれば日中に受診すべき軽症者が、便利だからという理由で夜間や休日の救急外来を利用する「コンビニ受診」です。風邪気味だから、仕事が忙しくて昼間行けないから、救急車で行けば早く診てもらえるから。そんな身勝手な理由による受診が、救急指定病院の機能を麻痺させています。救急指定病院のスタッフは、常に命のやり取りをする極度の緊張感の中にいます。そこに軽症患者が殺到することで、本当に1分1秒を争う脳梗塞や心筋梗塞の患者の診察が遅れ、救えたはずの命が失われるという悲劇が、現実に起きています。これは決して「病院側の都合」ではなく、私たち市民全体の安全に関わる重大な問題です。救急指定病院を次世代に引き継ぐためには、私たち市民が果たすべき責任があります。まず第一に、自身の健康管理を日頃から行い、信頼できる「かかりつけ医」を持つことです。些細な変化を日中に相談できる環境があれば、夜間に慌てて救急病院へ駆け込む必要は激減します。第二に、救急車や救急外来の適切な利用基準を学ぶことです。♯7119などの相談窓口を積極的に利用し、専門家の判断を仰ぐ謙虚さを持ちましょう。第三に、救急医療の現場で働く人々への敬意を忘れないことです。彼らは私たちの代わりに、誰もが寝静まった夜に命の番をしてくれています。理不尽なクレームや暴言は、彼らの心を折り、結果として地域から救急指定病院を消滅させることに繋がります。救急指定病院とは、そこに住む人々が「正しく使う」という約束事の上で成り立つ、繊細なバランスの上の均衡です。私たちが今日、不適切な受診を一つ控えることは、どこかの見知らぬ誰かの命を救うことに直結しています。そして、いつかその「見知らぬ誰か」が自分自身になるかもしれないのです。救急医療は、社会の信頼関係そのものです。救急指定病院が、私たちの子供や孫の代まで、同じように「最後の砦」として存在し続けられるかどうかは、今の私たちの行動にかかっています。救急指定病院という存在を大切に思い、敬意を持って利用する。そんな当たり前のことが、日本の救急医療の未来を創るのです。一人ひとりが自分の行動を振り返り、誇りある市民として救急指定病院と向き合っていくことが、今、強く求められています。
コンビニ受診の問題と救急指定病院を次世代に引き継ぐための市民の責任