営業職として働く私は、昔から自分のことを健康で体力には自信がある方だと思っていました。しかし、三十代後半に差し掛かった頃から、妻に「あなたのいびき、最近すごくうるさいよ。時々、息が止まってて心配になる」と言われるようになりました。最初は「疲れているだけだよ」と笑って受け流していましたが、指摘される頻度は日に日に増していきました。自分では全く自覚がなかったのですが、異変は日中の活動に現れ始めました。一番堪えたのは、午後の会議です。どれだけ気合を入れて臨んでも、上司の話が始まると、まるで抵抗できない魔法にかけられたように瞼が重くなり、数分間の記憶が飛んでしまうのです。ハッと我に返った時の、同僚からの冷ややかな視線が忘れられません。車の運転中にも、信号待ちで一瞬意識が遠のき、クラクションで我に返るという危険な経験もしました。これはさすがにまずい。そう思い、意を決してインターネットで症状を検索し、「睡眠時無呼吸症候群」という病名に行き着きました。そして、専門のクリニックの扉を叩いたのです。クリニックでは、まず自宅でできる簡易検査を受けました。手首や指にセンサーを付けて一晩眠るだけの簡単な検査でしたが、結果は衝撃的なものでした。一時間あたりに呼吸が止まったり浅くなったりする回数が、重症の基準をはるかに超えていたのです。医師から「このままでは心臓や血管に大きな負担がかかり続けます」と告げられ、私はCPAP(シーパップ)療法という治療を始めることになりました。鼻にマスクを装着し、機械で圧力をかけた空気を送り込んで、気道が塞がるのを防ぐというものです。正直、マスクをつけて眠ることに抵抗がありましたが、その効果は絶大でした。治療を始めたその翌朝、私はここ数年感じたことのないほどの爽快な目覚めを経験したのです。頭がすっきりとし、体も軽い。そして、あれほど私を悩ませていた日中の眠気が嘘のように消え去りました。今では、CPAPは私の命の恩人であり、毎晩の欠かせないパートナーです。