私は、仕事柄、多くの人と接する機会が多いため、毎年秋になると欠かさずインフルエンザの予防接種を受けることを習慣にしています。自分自身が感染源にならないため、そして万が一かかっても、仕事を長期間休むわけにはいかないからです。そんなある年の1月、職場ではインフルエンザが大流行し、同僚が次々と高熱で倒れていきました。「予防接種を受けているから大丈夫だろう」と高をくくっていた私ですが、ある日の午後、なんとなく体がだるく、軽い悪寒が走るのを感じました。熱を測ってみると37.5度。普段よりは少し高いですが、高熱というほどではありません。喉が少しイガイガする程度で、咳もほとんど出ず、インフルエンザに特徴的な関節の激しい痛みも全くありませんでした。「これは、ただの寝不足か、軽い風邪だろう。一晩寝れば治るさ」。私はそう楽観的に考え、市販の風邪薬を飲んで早めに就寝しました。翌朝、熱は37.2度に下がり、体の倦怠感も昨日よりはましになっていました。これなら仕事に行ける、と準備を始めた矢先、インフルエンザで休んでいた同僚から「念のため検査を受けたら、家族全員陽性だった」という連絡が入りました。その言葉に一抹の不安を覚え、私は出勤前に、かかりつけの内科クリニックに立ち寄ることにしました。医師に症状を伝えると、「まあ、風邪でしょうね。でも、念のため検査しておきましょうか」と言われ、鼻の奥に綿棒を入れられました。そして待つこと10分。診察室に呼ばれた私に、医師はこともなげにこう告げたのです。「陽性ですね。インフルエンザA型です」。私は耳を疑いました。高熱も関節痛もないのに、これがインフルエンザ?医師は私の驚いた顔を見て、にこやかに言いました。「毎年ワクチンを打っているおかげですよ。免疫がしっかり働いて、ウイルスが増えるのを抑えてくれたから、この程度の軽い症状で済んでいるんです」。処方された抗ウイルス薬を服用し、規定の期間を自宅で過ごしましたが、結局、熱が38度を超えることは一度もなく、体のだるさも2日ほどでほとんど消えてしまいました。あの時、もし予防接種を受けていなかったら、私も同僚たちのように高熱と激痛に苦しんでいたに違いありません。この経験を通じて、私は予防接種の本当の価値、すなわち「重症化を防ぐ」という絶大な効果を、身をもって実感したのです。
私が体験した軽いインフルエンザの症状