ここ数年、医療の世界で頻繁に議論されているキーワードに「免疫負債(イミュニティ・デット)」があります。これは、感染症対策が非常に厳格に行われた結果、本来であれば毎年のように流行するウイルスに曝露されず、集団全体の免疫レベルが低下してしまった状態を指します。2歳まで一度もRSウイルスにかからなかった子供たちは、まさにこの免疫負債の影響を最も強く受ける世代と言えるかもしれません。通常であれば2歳になるまでに、RSウイルスをはじめとする様々なウイルスと少しずつ「小出し」に出会い、免疫をトレーニングしていくのですが、その機会が全くなかったために、集団生活に入った瞬間に激しい感染の波に飲み込まれるリスクがあります。これからの対策として、親御さんが意識すべきことは、極端な回避から「賢い共生」へのシフトです。2歳を超えたのであれば、もうウイルスを完全にシャットアウトすることは不可能ですし、その必要もありません。これからは、ウイルスに触れることを恐れるあまり活動を制限するのではなく、感染した時にいかに早く気づき、いかに適切にケアするかという「受身の技術」を高めていく時期です。具体的には、お子さんの平時の呼吸数や胸の動きを把握しておくこと、身近な小児科の休診日や夜間診療の場所を再確認しておくこと、そして何よりも、お子さんの体調が悪い時にすぐに休ませられる環境を整えておくことが挙げられます。また、栄養バランスの取れた食事と十分な睡眠を確保し、土台となる基礎体力を底上げしておくことも、免疫負債を安全に返済していくための不可欠な要素です。初めてRSウイルスに感染した際は、2歳を過ぎていても4日から5日は高熱が続くことがあり、親としては非常に長く感じられますが、これは体が全力で初めての敵を学習しているプロセスです。この「免疫のトレーニング」を一度終えてしまえば、次に同じウイルスに出会った時には、体はすでに戦い方を知っているため、症状はぐっと軽くなります。2歳まで未感染だったからといって、これから特別な薬やサプリメントが必要なわけではありません。これまでの丁寧な生活をベースにしつつ、集団生活の中で出会うウイルスたちを「成長のための必要な経験」として受け入れていく心の準備をすること。それが、免疫負債という言葉に惑わされず、お子さんの健やかな成長を支えていくための、これからの正しい向き合い方なのです。
2歳までにRSウイルスにかからなかった子の免疫負債とこれからの対策