水疱瘡の治療において、薬の選択を誤ると取り返しのつかない事態を招くことがあります。その最たる例が、発熱に対する解熱剤の使用です。水疱瘡に伴う高熱を下げようとして、安易に家にある常備薬を使用することは極めて危険です。特に、アスピリン(サリチル酸系解熱鎮痛薬)は水疱瘡の患者には絶対に使用してはいけません。これは、インフルエンザや水疱瘡などのウイルス感染症の際にアスピリンを服用すると、ライ症候群という極めて重篤な疾患を引き起こすリスクがあるためです。ライ症候群とは、激しい嘔吐、意識障害、痙攣などが急激に現れ、肝臓の脂肪変性と脳浮腫を特徴とする病態です。発症すると死亡率が高く、一命を取り留めたとしても重い神経学的後遺症が残ることが少なくありません。1980年代にこの関連性が指摘されて以来、小児に対するアスピリンの使用は厳しく制限されるようになりましたが、現在でも大人の風邪薬や頭痛薬にはアレルゲンとしてのサリチル酸が含まれていることがあるため、細心の注意が必要です。また、アスピリンだけでなく、メフェナム酸やジクロフェナクナトリウムといった系統の解熱剤も、水疱瘡の際には避けるべきだとされています。これらは皮膚の重篤な副作用や感染症の悪化を招く可能性があるためです。では、水疱瘡で熱が出たときはどのような薬を使えば良いのでしょうか。現在の医療で最も安全な選択肢とされているのは、アセトアミノフェンを主成分とする解熱剤です。アセトアミノフェンは脳の体温調節中枢に穏やかに働きかけ、ライ症候群を引き起こすリスクが極めて低いとされています。ただし、たとえアセトアミノフェンであっても、自己判断で使用するのではなく、必ず医師に「水疱瘡の疑いがある」と伝えた上で処方してもらうことが基本です。また、薬に頼るだけでなく、脇の下や脚の付け根を冷やすといった物理的な冷却も、水疱瘡の熱を下げるためには有効な手段となります。薬は正しく使えば救いとなりますが、知識のないまま使用すれば毒にもなり得ます。特にウイルス感染症と解熱剤の関係は、一般に思われている以上に複雑で、かつ危険な落とし穴が潜んでいます。子どもの健やかな成長を守るため、そして自分自身の命を守るためにも、水疱瘡の際の「アスピリン厳禁」という知識は、家庭の医学としてしっかりと胸に刻んでおかなければなりません。病院を受診した際にお薬手帳を提示し、現在服用中のすべての薬を医師に確認してもらうことも、こうした悲劇を防ぐための重要な防衛策となります。