水疱瘡の薬について考えるとき、発症した後の治療薬と同じくらい重要なのが、発症を未然に防ぐための「予防としての薬」、すなわちワクチンです。日本において水疱瘡ワクチンは2014年から定期接種となり、1歳から3歳未満の子どもに対して2回の接種が公費で行われています。このワクチンは弱毒生ワクチンと呼ばれ、毒性を弱めたウイルスそのものを体内に注入することで、本物のウイルスが侵入したときに戦える免疫(抗体)を作らせる仕組みです。2回の接種を完了することで、水疱瘡の発症をほぼ100パーセント防ぐことができ、たとえ発症したとしても非常に軽い症状で済むようになります。しかし、ワクチンを打っていなかった人が水疱瘡の患者と接触してしまった場合、どうすれば良いのでしょうか。ここで登場するのが「暴露後予防」という考え方です。水疱瘡のウイルスに接触してから72時間以内にワクチンを接種すれば、発症を阻止できるか、あるいは発症しても重症化を抑えることができるという医学的データがあります。これは、ウイルスが体内で増殖して発症するよりも先に、ワクチンによって急速に免疫を立ち上げることで、ウイルスの先回りをしようという戦略です。もし、保育園や幼稚園、あるいは家庭内で水疱瘡が発生し、自分がまだ抗体を持っていないことが分かったなら、一刻も早く医療機関に相談してワクチンという「薬」を投与してもらうべきです。さらに、免疫不全の状態にある人や、妊婦など、ワクチンそのものを打つことができないハイリスク者がウイルスに接触した場合には、水痘帯状疱疹免疫グロブリンという特殊な薬を注射することもあります。これは、他人の血液から抽出した水疱瘡に対する抗体そのものを直接体に入れるもので、即効性がありますが、使用できる施設や条件は厳しく制限されています。また、抗ウイルス薬であるアシクロビルを、接触後しばらくしてから予防的に服用するという手法も、一部の医療現場では検討されることがあります。このように、水疱瘡に対する医学的な対抗策は、発症後の治療だけでなく、発症前の予防という段階でも非常に充実しています。かつては「誰もがかかる通過儀礼」として放置されていた水疱瘡ですが、現代では薬とワクチンの力によって、かかる必要のない、あるいはかかっても怖くない病気へと変貌を遂げています。自分や周りの大切な人を守るために、ワクチンの定期接種を確実に行い、万が一の接触時には迅速に暴露後予防の相談をすることが、現代の感染症対策におけるスタンダードな心得と言えるでしょう。
水疱瘡の感染拡大を防ぐための予防接種と緊急時の暴露後予防薬